こんにちは!
介護食シェフの在川です。
嚥下調整食のお悩みとして「ミキサー食やゼリー食が安定しない」「日によってムラがある」と、問い合わせをいただくことがあります。
今回は嚥下調整食をムラなく作る3つのポイントの1つ「分散」についてお伝えします。
「分散」について理解し、調理に落とし込むことで、嚥下調整食の物性が安定します。
嚥下調整食の作り方のポイント「計量」「温度」と併せて覚えておきましょう!
目次
嚥下調整食の基本ポイント:分散とは
分散と聞いて皆さんは何を想像しますか?
・食事をミキサーで粉砕し、バラバラにする
・とろみ調整食品をお茶に入れて、溶かす
といったところでしょうか。
嚥下調整食を作る場合の『分散』とは、
『とろみ調整食品』や『ゲル化剤』などの粉末製品が
食品中に “ 均一に(きれいに)混ざっていること ” を指します。
嚥下調整食作りにおける撹拌の不十分さは、ゼリー状のお食事を「離水のある状態」や「固まりが悪い状態」にする原因になります。
ゲル化剤が均一に分散されていないとゼリー食がうまく固まらず、離水のあるお食事になることがあります。
そこでポイントとなってくるのが【分散】です!
きれいに 分散されて「いない」もの/分散されて「いる」もの
ゼリー食の素が『均一に分散されていないもの(A)』と、『均一に分散されているもの(B)』を
それぞれ加熱後、冷却したものがこちらです。
引用画像元:嚥下調整食づくりにおけるゲル化剤のいろは~ゲル化剤の正しい使い方~
画像を表で比較すると、下記のようにまとめられます。
均一に分散されていないもの(A) | ゲル化剤の力が発揮されず、うまく固まらない。 ゲル化している水ゼリーの周りにゲル化していない水が離水 している。※ |
均一に分散されているもの(B) | 離水のない、きれいな水ゼリーに仕上がる |
※均一に分散されていない(A)のような状態だと、液体と固体が一緒に口に入ってしまいます。
液体と固体はそれぞれ、喉を通過する速度が異なるので、嚥下状態が悪い方だとむせ込む原因になってしまいます。
続いて、どのような要因で、Aのような(うまく分散されない)状態になるのか見てみましょう。
要因①
ミキサー以外のフードプロセッサー/ミルサーを使っている
フードプロセッサーやミルサーを使用している場合は、ゲル化剤が上手く分散されず、固まらないことがあります。
それは、調理機器ごとにそれぞれ特徴が異なるからです。
嚥下調理食には欠かせない調理機器のミキサー・フードプロセッサー・ミルサーの特徴を確認してみましょう!
ミキサーの特徴
ミキサー ( ブレンダー ) は容器内で食材を上下左右に撹拌します。4枚刃のものが主流です。
食材を細かく切り刻み撹拌することで、ジュースやスムージー、ペーストなどが作れます。
つまり、ミキサーは『固体⇒液体状』に調理する際に使用する機材となります。
嚥下調整食づくりには外せない大事な機材です!
フードプロセッサーの特徴
フードプロセッサーは容器内で左右の撹拌をします。
食材を切り刻み、さらに細かい状態にするときに使います。
主な役割は料理の下ごしらえで、食材をスライス状やみじん切りにします。
また、フードプロセッサーで食材を撹拌すると、ミキサーよりも繊維質が残りやすく舌ざわりや食感も不均質に感じます。
フードプロセッサーは『固体⇒固体』に調理する際に使用する機材となります。
フードプロセッサーでペースト食を作る場合は、撹拌途中にヘラなどで上下を混ぜると改善されます。
ミルサーの特徴
ミキサー同様、容器内で上下左右の撹拌をしますが、2枚刃のものが主流です。
ミキサーと比べて容器が小さいこともミルサーの特徴です。
2枚の短い刃で食材を裁断するので、ミキサーよりも粗い仕上がりになります。
主な役割は食材を粒の残る程度に仕上げることで、自家製のふりかけや少量のソースなどが作れます。
つまり、『固体⇒粉末』に調理する際に使用する機材
となります。
なめらかなペーストを作るためには、加水量(水を入れる量)を増やすと良いでしょう。
家庭用ミキサーと業務用ミキサーの比較
家庭用ミキサーと業務用ミキサーではパワーが倍近く違うということも抑えておいていただきたいポイントです。
家庭用ミキサー | 業務用ミキサー | |
回転数※ | 1万回前後 | 2万回以上 |
※あくまでも目安です
一言に『ミキサー』と言っても、使用するモノによって「なめらかさ」や「ざらつき」、「繊維質感の残存」など仕上がりの状態が大きく変わってきます。
言葉だけでは分かりにくいので、繊維が残りやすい鮭の塩焼き:水=1:1量のミキサー食で比較したいと思います。
【今回の比較条件】
- 家庭用・業務用のそれぞれのミキサーで30秒間撹拌する
- ザルで漉して10分間おく
左の家庭用ミキサーで撹拌したものは、ザルに通りづらいだけでなく、多くの鮭の繊維が残っていることが確認できます。
この結果から
よりなめらかで均質なペースト状に仕上げる調理には、業務用のミキサーが向いているということがわかりますよね。
家庭用のミキサーで、なめらかで均質なペーストに仕上げるには
加水量を2倍以上にして調理しましょう。
ただし、なめらかにはなりますが、1食当たりの栄養価は下がってしまいます。
要因②
ミキサーに対して食材の量が適切ではない
今回は、「ブリの照り焼き」や「ほうれん草」など繊維が残りやすいものを例に紹介します!
ミキサーに対して食材が少なすぎるとミキサーの刃が食材をうまく捕えることができず、空回りをしてうまくゼリー食の素が分散できません。
逆に、ミキサーに対して食材が多すぎるとミキサーの下部しか回らず、やはり均一にゼリー食の素が分散されません。
ミキサーの容器には容量の上限量と下限量が記されています。
適切な分量の食材を入れることで全体が均一に分散されます。
また、ミキサーの上限値以上に容量は入りますが、溢れたり、うまく回らなかったりしますので、くれぐれも入れすぎにはご注意ください。
要因③
ミキサーにかける時間が短い
ミキサーで撹拌が必要な嚥下調整食を作る際に、守るべき点は「1分間を目安にしっかりとミキサーにかけること」です。
例えば、家庭で野菜ジュースやスムージーなどを作る際には、『固形物を液状化し、飲みやすくすることが目的なので、数10秒程度ミキサーにかけるだけで十分です。
しかし、[とろみ調整食品]や[ゼリー食の素]などの製品を添加し、物性を調整する嚥下調整食の場合には、これでは不十分です。
見た目はミキサーにかかっているように見えても、ゲル化剤の分散は不十分となります。
十分な時間攪拌をしないと、
・嚥下調整食が部分的に固まらない
・一部が非常にかたいゼリーに仕上がってしまう
こんなケースにも繋がります。
先程ご紹介した旭(株)のスーパーブレンダー ASH-2N SUPERPROには、30秒ごとのタイマーが内蔵されており、1分間の計測がラクにできるのでオススメです!
また、指定した時間に達すると自動off機能のため、勝手に止まってくれる優れものです。
自動off機能があるため、ミキサーを回している間の時間を有効活用できますね!
ご興味があれば、デモ機貸出も実施しております。
まとめ
嚥下調整食をしっかり分散させるポイントをおさらいしましょう!
今回は、嚥下調整食を作る際のポイントの1つである【分散】のお話をさせて頂きました。
調理オペレーションがマニュアル化されることで、作り手の技量に大きく左右されることなく、日々のお食事を安定的に提供できるようになるかと思います。
正しい知識を持って嚥下調整食を作ることで、調理する人も、提供する人も、食べる人も、食に携わるすべての人に笑顔をもたらすのではないでしょうか。
本記事が少しでも皆様のお役に立てると嬉しいです。
本ブログは弊社発行の小冊子「嚥下調整食づくりにおけるゲル化剤のいろは~ゲル化剤の正しい使い方~(監修:管理栄養士 江頭文江先生(地域栄養ケアPEACH厚木 代表))」を引用し、作成しております。
小冊子は弊社HPよりダウンロード可能です。
更新:2022年12月22日 (在川・狩野)
【参考資料】
嚥下調整食づくりにおけるゲル化剤のいろは
~ゲル化剤の正しい使い方~
監修:管理栄養士 江頭文江先生(地域栄養ケアPEACH厚木 代表)